あー

長文で感想が書きたくなった作品が。
異世界で能力者は踊れない

★★★☆☆

ハイファンタジー系悲恋モノ。なろうではかなり異質な話です。完結済なので、以下感想ネタバレ注意。まあ読んでないと何書いてあるのかよくわからないかもだけど。
文章力は高く、描写力も高い。タイトルからラストにかけてのギミックも仕込んでいて、それが作品としての一貫性をもたせている。レベルは非常に高い、小説になっている数少ない作品なんじゃないかと思います。
んで、評価がいまいち低いのは好みじゃないというのもあるんですが、作品の芯の部分に問題があるかなと。主人公が”剣”に囚われて人間性をなくしていき、それですれ違い悲恋になるという話なんですが、視点、価値観が一面的という感じがしてならない。
現代日本ではバトルマニアは異常者、人間性と真逆、という形になるのですが、別にそれは日本に闘争戦争がないからであって、それが日常の世界においては当り前。人を殺すということと人間らしく生きるということは矛盾しないのですね。矛盾しない世界の価値観に染まれないのであれば、それは染まれないほうが異端。それを、異世界に行ってからも常に現代日本側の視点から見続けて、主人公を異端扱いするのはいまいち面白くないと感じましたね。
後はあまりに苛烈な環境にあり、立場が脆弱な若者達にもかかわらず、主要キャラのみんなが自分(キャラクターといってもいい)をしっかり持って、それに基づいて行動しているのが強いように感じるかなあ。そうならないようなエピソードは挟んであるんだけどね。心を折られたのは結局のところ一人だけでしたし。価値観のすれ違いやぶつかり合いが意味をなさないぐらいの状況にあるんじゃねーかなという気もします。
まあ一番は主人公が浅いというところでしょう。キャラクターの魅力はその多面性によって描かれる部分が強いんですが、そこがテーマの必然性で単純化されてるもんで。まあ主人公の始まり、という話だしね。だから、”それから”が足らないんじゃない?という読後感がどうしても湧いてくる。
物語として深みを出すなら、例えば数十年後に主人公が死を迎える状況において、この世界に来た時のことを走馬灯の様に思い出す、みたいな構成にしたらすっきりするんだろうかなー。罰を受けた主人公が、始まりの罪を回想するという形。それならモヤモヤする読後感もスッキリしそう。構成上は複雑になるけどね。